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12月1日(木)アセンブリーアワー講演会「みる誕生(ゲスト:鴻池朋子氏)」レポート

アセンブリーアワー講演会は、京都精華大学の開学した1968年から行われている公開トークイベントで、これまで54年間続けてきました。分野を問わず、時代に残る活動や世界に感動を与える表現をしている人をゲストに迎えています。
 
2022年12月1日(木)は、ドローイング、旅、彫刻、歌、アニメなどさまざまなメディアを通して作品を発表してきた現代アーティストの鴻池朋子さんをゲストに迎え、高松市美術館(2022年7月16日?9月4日)や静岡県立美術館(2022年11月3日?2023年1月9日)で開催された鴻池さんの展覧会「みる誕生」と同じタイトルで講演いただきました。
鴻池さんは、制作を通じて人間と動物、おとぎ話、考古学、民族学などの視点から対話を重ね、エネルギーと芸術の取り直しを試みてきたアーティストで、2017年に個展「根源的暴力 Vol.2」(群馬県立近代美術館)で第67回芸術選奨文部科学大臣賞、2020年には個展「鴻池朋子 ちゅうがえり」(アーティゾン美術館)で第62回毎日芸術賞を受賞。作品集だけではなく、絵本や対談集など著作も多数出版されています。


※本公演会は、会場での対面聴講と同時に、オンライン配信を行いました。 

みる誕生(ゲスト:鴻池朋子氏)」講演会レポート

通常のアセンブリーアワー講演会は、机と椅子をスクール形式に並べて開催していますが、今回は急遽、鴻池さんの提案によって、教室のレイアウトを変更しました。整然と並べられた会議室のようなスタイルを取っ払い、講師と参加者が向き合うよう椅子だけを並べる──。鴻池さんは「空気が固まっていたので、まずは空気を逃そうと。そうやって少しワサワサさせたり、空気を馴染ませることで、今日いらっしゃった方と一緒に対話ができたら。そんなことを美術館でもやっていました」といいます。
鴻池さんの「みる誕生」は、〈視覚だけではなく、観客は作品を手で看(み)て、鼻で診(み)て、耳で視(み)て、そして引力や呼吸で観(み)て、眠っていた感覚を目覚めさせます〉(展覧会HPより)というもの。そして、「美術館」や「展覧会」に対して抱きがちな固定概念や決まりごとがほどけていくような体験をもたらすものでした。たとえば、展示室のいたるところに置かれた、動物たちのさまざまなフン。実物ではなく紙粘土やエポキシ樹脂によってつくられた模型ですが、鴻池さんはその発想の一端をこう語ります。
「展覧会を考えるときに“人間がつくった素晴らしい宝物”という意識から外す、ふっと目を逸らすためにも、こんなところにうんちが落ちてるよ、と。通常は、聖なる作品にその汚いものを置くというアンチテーゼ的なコンセプトだと安易に読み解くものですが、いまの人たちはそうしない観客だという期待がありました」



じつは今回の鴻池さんの講演会は、会場のレイアウト変更だけではなく、講演の途中に参加者が自由に質問や感想を述べるという、やはり通常とは違ったかたちで進行。たとえば、「みる誕生」展で展示された狼の毛皮に触れ、その初めての体験に魅了されたという学生は、動物の皮を集積するその動機について質問しました。
それに対し、鴻池さんは「何か思いや意図はなく、触っていてすごく気持ちいいという性的快感に近いような理由。それ以上もそれ以下もないので、創作ができないんですね。手出しができないから、そのまま差し出している。それでも私は人間なので、なんとか工夫して作品にするぞと思うのだけれど、何年も何年もずっと失敗してきているのが、毛皮という素材なんです」と回答。さらに、展示される毛皮が害獣駆除されたものであることや、知り合いのマタギの方や鞣し工場の職人さんたちとの交流についても言及し、「そうした経緯は展覧会にはこれっぽちも出ないんですけれど、そういうことをやっているのが好き、という部分も大きいです」とお話してくれました。
また、「摂取?吸収?消化?排泄というプロセスが作品づくりに似ていると感じている」と言う学生は、「みる誕生」展で動物のフンをみた際に「純粋に生きることとは何かを実感した。作品をつくることが生きることに私もなりたいと強く思えた」とその感想を熱く語りました。すると、鴻池さんは「これから私がインタビューをしていきたいくらい、観客ひとりひとりに面白いことが起こっているんですね」と呼応し、こう続けました。
「自分の作品がエネルギーを発揮したなと思うときって、道具みたいになってくれているときです。そこに介在する人との関係性によって、作品といわれるものが機能しはじめるといいますか。さっきの毛皮もそうですが、あれは毛皮を鞣した人の作品ですよね。私の作品ではなく、私はただそこに置いただけです。置いた場所が美術館だからそのようなかたちに見えるけれども、家に置いてればそれは普通に毛皮です。その部分を切り取ってやったのがポップアートだったりしますが、でも、そういうことを無理矢理やらなくても、いまはものや素材、そのものに素直に目を向けられて関係性を持てるような環境になっている。そのことをもっと有意義に考えていけたらいいなというふうに思うんですね」
数多く寄せられた質問や感想ひとつひとつに、真摯に言葉を紡いでくれた鴻池さん。まさに参加者と「一緒に対話する」時間となりました。とくに、日々制作に打ち込む学生にとっては、得難い貴重な機会となったはずです。

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