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『風ノ旅ビト』『Sky 星を紡ぐ子どもたち』を生んだ世界的ゲームスタジオ 「thatgamecompany」の思想にふれる 7/8(月)ジェノヴァ?チェン氏トークイベントレポート


『風ノ旅ビト』『Sky 星を紡ぐ子どもたち』など、世界的人気ゲームを生んできた「thatgamecompany」の創設者兼クリエイティブデザイナーであるジェノヴァ?チェン氏をゲストに迎えたトークイベントを、全学共通科目「クリエイティブの現場」の特別講座として開催いたしました。
トークでは、暴力や破壊といった攻撃的な刺激ではなく人種や性別といった属性を超えて人と繋がる、共感しあうことに重きが置かれたゲーム作品を発表してきたジェノヴァ氏の思考の根幹から、開発時の試行錯誤、さらにゲームを通じてより良き現実世界をつくろうとする取り組みなどが語られ、メッセージに溢れた貴重な時間に。表現を磨き、世界に挑戦しようとする学生たちにとって、視座を高めるまたとない機会となりました。
 

特別講座「健やかなオンラインコミュニティを創造するゲームデザインとはなにか ─Designing to reduce online toxicity(ゲスト:ジェノヴァ?チェン氏)」レポート

(ゲーム『Sky 星を紡ぐ子どもたち』 / thatgamecompany)
ゲームというメディアを通じてポジティブな感情体験を生み、世界中の人々が繋がることをめざすアメリカのゲームスタジオ「thatgamecompany」。言葉や文字を排した広大な砂漠が広がる世界を旅する『風ノ旅ビト』や、美しくも謎に包まれた空の王国を冒険する『Sky 星を紡ぐ子どもたち』などの作品は、「心が揺さぶられる、これまでにない体験を味わえるゲーム」として多くのファンを獲得。「thatgamecompany」の作品は数々のアワードを受賞し、ニューヨーク近代美術館(MoMA)やスミソニアン?アメリカ美術館に展示されるなど、アートとしても高い評価を得ています。

(左:ジェノヴァ?チェン氏、右:水谷 立氏)
2024年7月8日、ゲームスタジオ「thatgamecompany」設立者でクリエイティブディレクターとして活躍するジェノヴァ?チェン氏が京都精華大学に来学し、全学共通科目「クリエイティブの現場」の特別講座として開催したトークイベントに登壇。昨年、本学の非常勤講師に就任した「thatgamecompany」のジャパン?ブランド?リード兼リード?オーディオ?デザイナーの水谷 立氏が通訳を担当するかたちで、「健やかなオンラインコミュニティを創造するゲームデザインとはなにか ─Designing to reduce online toxicity」をテーマに講演を行いました。
「thatgamecompany」の作品の特徴は、暴力や破壊といった攻撃的な刺激ではなく、人種や性別といった属性を超えて人と繋がる、共感しあうことに重きが置かれていることにあります。じつは、ジェノヴァ氏が同社を設立したのも、学生時代につくったゲーム作品に対して世界中のプレイヤーから「競争や暴力がなくてもゲームは描けるのだと初めて知った」といった感想が数多く寄せられたことがきっかけだったそうです。
 
ゲームをめぐって提起されている問題は、暴力的な描写だけではありません。とりわけオンラインゲームでは、ハラスメントが起こるなどの負の側面が取り沙汰されることも多くなっています。でも、ジェノヴァ氏は「プレイヤーの振る舞いは、環境によって決まっていく」とし、こう語ります。

「ゲームのプレイヤーに、生まれながら悪い人はひとりもいません。ゲームの中で望ましくない、悪い行動をする人がいるのは、そもそも、そういう振る舞いをするようなゲームデザインになっているのではないか」
「私たちが『Sky 星を紡ぐ子どもたち』で挑戦しようとしたのは、人と人の繋がりの中で人間のポジティブな面に気づいたり、心からの問いかけや思いやりというものを受け取る、あるいは思いやりを渡す、そういった体験を表現したいということでした」
 
しかし、こうした挑戦は簡単なものではなく、幾度とないトライアンドエラーを繰り返してきました。
 
たとえば『風ノ旅ビト』の開発時には、プレイヤー同士が物理的に接触し、互いに押し合って崖を越えたり高い壁を登るといった協力プレイによって、交流を深めることができるのではないか、と考えたそう。ところが、テストプレイを行うと、相手を崖に追いやったり殺したりといったことが起こってしまった、といいます。
 
ですが、このことを児童心理学者に相談すると、こんな答えが返ってきたそうです。
 
「新しいゲームをプレイするプレイヤーというのは、その世界においては赤ん坊のようなもの。赤ん坊は、あらゆることを試してみて、どういう結果が起きるのかを見たい。こちらがネガティブなフィードバックだと思って与えていることでも、ポジティブなフィードバックとして受け取ることが多々あります」
新しいゲームのプレイヤーは赤ちゃんのような状態である……。このアドバイスをもとに選んだ方法は、「迷惑行為をするプレイヤーに対して、いかなるフィードバックも返さない」ということ。さらに、互いに助け合うことを促す仕組みを設け、交流が深められるかたちになったそうです。
 
また、開発に7年を要した『Sky 星を紡ぐ子どもたち』では、「同意」を経た「信頼」の形成を重視すること、そして交流に報酬のようなシステムを混ぜ合わせないことによって、プレイヤー同士の活発な結びつきや友情をよりいっそう深めることが可能になりました。
 
『風ノ旅ビト』や『Sky 星を紡ぐ子どもたち』など「thatgamecompany」の作品をプレイした人からは、「優しい気持ちにふれることができる」「人のあたたかさを感じることができる」といった感想がよく聞かれます。それは、人間が持つポジティブで明るい面を信じることをけっして諦めない、ジェノヴァ氏の強い信念があるからなのではないでしょうか。

ジェノヴァ氏は、このような言葉で本講演を締めくくりました。
 
「プレイヤー同士の繋がりというものは、あくまで自発的かつ純粋な仕様としてデザインされるべきものであると私たちは考えています。それは、ゲーム内でデザインしてつくっていく人間関係、繋がりというのは、現実世界や社会にも大きな影響を及ぼすものであると考えているからです。
私たちはゲームを作ることしかできませんが、私たちがめざすように、この社会もまた人間の尊厳を壊すのではなく尊重するようにデザインをしていけるのではないか。私たちのゲームが社会に対してそのような影響を少しでも及ぼすことができるのではないか。そんなふうに私は考えています」
 
表現で世界を変える──。ジェノヴァ氏のクリエイティブは、京都精華大学がめざす学びのかたちとも共通するものです。この日、ジェノヴァ氏が語ったメッセージは、自分だけの表現を追求する学生たち、これから大きな世界へと飛び立とうとする学生たちにとって、とても大きな糧となったことでしょう。

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